映画の中で、写真を効果的に使っている作品は多い。最後にそのシーンが、一番好きになった映画もある。黒澤明監督が、1975年ロシアで撮影した「デルス・ウザーラ」もその一つ。ロシア人探検家のアルセーニエフ隊長と呼ばれているは、当時ロシアにとって地図上の空白地帯だったシホテ・アリン地方の地図製作のため、探検隊を率いて来た。山中で偶然出会った先住民ゴリド族の猟師デルス・ウザーラが、ガイドとして彼らに同行することになる。シベリアの広大な風景と過酷な自然。命懸けのサバイバル。風、雪、嵐と、背景の動きは黒澤映画ではお馴染み。しかし、これ程激しい自然を描写した作品は少ないと思う。そして、黒澤監督ならではの絵画的な構図に息を呑む。風景写真が好きな人には、たまらない。

デルスはどんな状況でも「生きる」術を知っている。そして、水、土、風、月、太陽、動物、植物、人、万物全て対等に思い、敬意の念を忘れない。現代人の隊長はデルスの言葉/行動に感銘を受け、徐々に2人の友情は深くなる。デルスのエピソードで一つ。山中で嵐に遭った探検隊。デルスは野性的な本能と鋭い観察力で、朽ちかけた小さな山小屋をみつける。一夜を明かし、出発の準備をする探検隊。デルスは一人、山小屋の屋根や壁を修理する。隊長は、外で日誌を付けている。探検隊は出発の準備を終える。最後にデルスは隊長に、食料をくれと言う。隊長は「もう出発する、この山小屋に用はない」。デルスは「食料があれば、次に来た人が死なない」。この”人”とはデルスにとって、人間だけではない。生き物すべてを指している。そして、この一連のシーン嵐が去った朝からは同じアングルでカメラを据え置き、ワンカットで長回し撮影されている。

全編が激しい自然ではない。春から夏のシーンは穏やかで優しい。その穏やかなシーンを、ほとんど写真で表現している。このミッションが終わればデルスと別れる。隊長はこの穏やかな季節の間に、デルスとの思い出を写真に残す。木を切るデルス。馬に股がるデルス。小さなデルスが大きな荷物を運ぶ。笑うデルス。歌うデルス。驚くデルス。何気ないデルス。隊長とのツーショット。どの写真も素晴らしい。一枚の写真だけで映像が目に浮かぶ。激しい自然を映像で見せ、穏やかな季節は写真で見せる。このコントラストが素晴らしい。映画の中の写真。デルスの笑顔は忘れない。また、涙がでてきた。。。

2016年夏、大峯山で撮影したムービー。「デルス・ウザーラ」へのオマージュ。

 

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