P.ANGENIEUX PARISとレンズ先端に刻まれた文字に、このメーカーの自信が表されている。使いはじめた頃は、この自信がどこから来ているのか理解できなかった。正確に言えば、10枚ほど撮った時点では、見たことの無い描写に感動したが、枚数を重ねるごとに段々疑問が湧いてきた。開放でのピントは甘いし、周辺は流れる。遠景は油絵みたいになるし、周辺減光は激しい。おまけに最短撮影距離が1m。それが今では手放せないレンズになっている。

段々と使い慣れたからではない。一見短所に思える点を、素直に受け入れたからである。仏心とでもいうか、仏(ほとけ)のアンジェニュー。それと、動画では短所に思えることが、ほぼ長所として使っている。周辺減光は映画っぽくて味がある。ピントは甘いが、芯があるのでボケている訳ではない。女性を撮れば、その良さが分かる。この写真は、元劇団四季、ジュディ八田さん主演のDVDから切り出したもの。楽屋のテーブルライトと、鏡に反射した光だけで撮影。その下は同じDVDの切り出しで、ライブシーンの一コマ。ステージの照明(ハロゲン)で撮っている。どちらも90mmの開放。

オープニングACT.Still001.jpg

I Can t Give You Anything but Love.Still001.jpg

画質は写真ほどではないが、十分アンジェニューの魅力が出ていると思う。カラコレをしているが、元よりコントラストを上げているくらいで、大きくデフォルメしていない。コマーシャル的な写りではないが、肌の質感が艶めかしく写る。これがアンジェニュー。

このアンジェニュー・ズーム45-90は倍率が2倍。同じ2倍のズームで、80年代に一時流行したショートズームがある。CANONやNIKON、ライカまでも出していた35-70mm。これは、50mm標準レンズを使いながら、前後に幅を持たせた便利物。当然性能は大体50mm付近がよく、ワイドで樽型、テレで糸巻きといった歪みがある。アンジェニューは少し性格が違う。45mmは引きで全体を撮るときに有効で、2.8の開放であっても被写界深度が深く、少し絞るだけでやや甘いが、パンフォーカスになる。90mm開放では2.8とは思えないほどのボケ量で、人物をアップで撮るのに最適だ。ズームして被写体を引き寄せる他のズームレンズとは違い、単焦点90mmのつもりで使い、必要な時に少し拡げて撮る。引きと寄り、全く性格が違う2本の単焦点レンズを、1本にしたようなレンズだ。

アンジェニューは元々、映画用のレンズ(主にズームレンズ)を作るメーカーなので、こうした特性になるのかも知れない。アンジェニューが「フランス映画のような」と言われる理由は、描写だけではなくこのズームの特性もあると思う。スチール用のレンズに求められる、解像度や他の性能は持ち合わせていないアンジェニュー。しかし、それを全て仏心で許すことで、このレンズの魅力を引き出せる(気がする)。仏(ほとけ)のアンジェニュー。PARIS。

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