ここは大阪道頓堀。ミュージックビデオ撮影の下見に来ている。人通りが多い場所での演奏計画、少々ハードルが高い。撮影方法は何時ものゲリラ撮影を予定している。昔の道頓堀はもっとアウトローな場所だった。阪神タイガースが日本シリーズ優勝した1985年、道頓堀川にカーネル・サンダースが投げ込まれ、虎キチが一緒に泳いでいたことを思い出す。最近は観光客が多くなった為か、治安が良くなった感じがする。それでもグリコの看板や、蟹やふぐの看板は健在。大声で飛び交うアジア語が、異国感を高めている。個性的な人達が、カラフルな街を練り歩く。まるで、黒澤映画「どですかでん」のようだ。

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「どですかでん」は1970年の黒澤映画で、主役不在の群像劇。小学校5年の時、父に連れられ近所の映画館で観た。しかし、当時の私には理解不能。始まってすぐ寝てしまい、後半10分くらいで目が覚めた。それでも、色彩豊かな映像だけは記憶にあった。

バラック住まいの親子の家。クレヨンで描いた電車の絵が、壁、襖、扉と隙間なく埋め尽くしている。大声でお経を唱える親子。カメラはぐるりと絵を見せる。その子供は毎日朝から晩まで、架空の電車を運転して町を走る。「どですかでん、どですかでん、どですかでん」今日も電車は町を行く。ここは日本の何処か。廃材で作った家が点々と立つ。舗装されていない土の道。一つしかない共同の水場。女達は洗い物や洗濯に集まり、うわさ話を楽しむ。それぞれの家の、それぞれのドラマ。登場人物は人間の枠を越えた超個性人ばかり。スターウォーズに出てくる、ルークの故郷に似ている。そして、廃墟のような町なのに色彩豊かに描かれている。

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この映画が世界中の映画監督に、影響を与えたことが頷ける。長回しのシーンは、始まりと終わりにストーリーがあり、役者の演技と構図が完璧。背景の動きと独特の色彩。まるで、ゴッホの絵画のよう。部屋の中の撮影は特に素晴らしい。ミュージックビデオ制作に役立つヒントの宝庫。狭い部屋でも、ちゃんと立体感があり、パースなんて絶対つけない。照明とカメラワークが絶妙なのだ。

最近また、この映画を観て感じたことは、「どですかでん」はファンタジー。それぞれの家が一つの星で、そこに住む人は異星人。電車少年は、旅する宇宙飛行士。銀河鉄道。道頓堀も負けていない。一種独特の色彩と、行き交う人々はこの映画に似ている。「どですかでん、どですかでん」と歩いてくる人がいても、おかしくない。

do3.jpg モデルは作曲家の足立 知謙 さん(上2枚)  EOS M5 + New FD 50mm 1.2L(3枚共)

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